
まだ登山道がない時代、先人たちは沢を登り山を越えた。沢を渡渉するのは危険も伴うが、藪がなく谷の水流を辿ることで道迷いせず峠や山頂を目指せる。水や魚もいるから食糧の確保もできた。沢登りは修験道を除けば、登山の原点とも言われている文化。

山登りを始めて6年。鷹取山で初めてロッククライミングを体験し、残す登山法は沢登り。いつか体験できればと思っていたが、岩登りでお世話になったガイドのKさんから「沢登り教室に来ませんか?」とメッセンジャーが届いた。
ガイド料は18,000円。2021年は立山と北海道の今金に行き財布が苦しい。月末には奥秩父にも行く。しかし、他者からの誘いには縁の力が宿る。返事するときは迷いを伝えてはいけない。相手に失礼であり、福が逃げる。返事は「はい」「承知しました」「喜んで」の3つだけ。

5月の丹沢は新緑が麗しい。足柄茶の産地であり、丹沢には緑が似合う。耳をすませばウグイスのさえずりも心を洗う。沢登り教室の参加者は4人。自分以外は女性。全員、初心者だ。沢靴はKさんから借りた。底のソールがゴム製のもの。苔に滑りやすいが、岩と滝には効力を発揮する。

ガイドのやり方は十人十色だが、Kさんは岩登りのときも手取り足取り教えない。教えてくれたのは、岩の色が変わっている部分は人が踏んだ跡なので滑りにくいという一点。
うれしいのは危険な滝登り以外は僕だけロープをつけなかったこと。
登攀(とうはん)のときはトップバッターに指名される。人によっては「同じガイド料を払っているのに扱いが違う」と文句を言うかもしれない。
しかし、本当の平等は、きちんと実力を見て判断してくれること。Kさんは”お客様”ではなく”クライマー”として我々を見てくれている。だから人によって扱いを変える。

滝を見上げると「こんなの登れるわけない」と思う。極真空手の合宿で滝打ち業を経験したときは、1分も持たなかった。
しかし、限界とは自分の中で創り上げる幻想。いざ、滝を攀じ登ってみると、意外とグリップが効いて登れてしまう。考えるより行動する。行動しながら考え、修正すればいい。沢登りは登山の縮図そのものだ。

沢の遡上は鮭と同じく、新しい自分を産み落とす儀式。登山とは生まれ直すための祝祭に他ならない。そこに山があるからではなく、そこに未知の自分が待っているから登る。「たくさん」は「沢山」と書く。沢と山は一心同体。丹沢に咲くウツギの純白が、なごり雪のように愛おしかった。
登山帰りの丹沢のおすすめ温泉
沢登りとは?
沢登り(さわのぼり)とは、川(沢)を源流へとさかのぼり、滝やナメ(平らな岩場)、ゴルジュ(峡谷)などの地形を越えながら、山の尾根や頂上を目指す登山のスタイル。
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岩・水・苔・風のすべてを感じながら登る、五感で楽しむ登山
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通常の登山道とは異なり、ルートが明確に整備されていないのが特徴
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夏場が最も人気で、水と親しみながらアドベンチャー感覚で山を楽しめる
沢登りの基本的な方法・装備
● 方法
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地図とコンパスを使ってルートを確認しながら、沢の流れを逆にたどって登る
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ときには水の中を歩き、滝を巻いたり、時には直登したりする
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ゴルジュ(狭い谷間)や滝では、ロープやクライミング技術が必要になる
● 基本装備
| 装備 | 説明 |
|---|---|
| 沢靴 |
ゴムまたはフェルト底 滑りにくく岩にしっかり接地できる |
| ヘルメット | 滑落や落石に備える必需品 |
| ハーネス・ロープ |
滝登りや懸垂下降の際に必要 初心者はガイド付き推奨 |
| 防水パック | 荷物やスマホを濡らさないため |
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レインウェア 速乾ウェア |
沢では必ず濡れる 防寒と速乾が大切 |
沢登りの魅力とリスク
● 魅力
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滝を直登したり、水と戯れながら進む独特の爽快感
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普段の登山では見られない秘境的な景観
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道に頼らない、自分の足と判断力で進む冒険性
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水音・鳥の声・苔の香り…自然の全身浴
● リスクと注意点
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滑落・転倒・増水による遭難など、リスクは高い
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沢は天気の影響を非常に受けやすく、少しの雨でも急な増水や鉄砲水の危険あり
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地図読み・ルートファインディング力が必須
沢登りは「最も原始的で、最も本質的な登山」。冒険・美しさ・怖さ・成長のすべてが詰まっている。
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